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大阪地方裁判所 昭和30年(行)38号 判決

原告 横道龍彦

被告 浪速税務署長 外一名

訴訟代理人 藤野哲郎 外二名

主文

被告浪税務署長が昭和二八年六月一日原告に対してした昭和二七年分所得税の所得金額を一七七、〇〇〇円とする更正決定が無効であることを確認する旨の原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は当初「被告大阪国税局長が昭和二九年九月二三日原告に対してした昭和二七年分所得税の所得金額を一七七、〇〇〇円とする決定の内、九〇、八〇〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めたが、後にこれを変更して「被告浪速税務署長が昭和二八年六月一日原告に対してした昭和二七年分所得税の所得金額を一七七、〇〇〇円とする更正決定が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

原告は昭和二七年分所得税に関し昭和二八年三月一五日被告浪速税務署長に対し所得金額を九〇、八五二円とする確定申告をしたところ、同被告は昭和二八年六月一日所得金額を一七七、〇〇〇円に更正する旨の決定をしたので、原告は同被告に再調査の請求をしたが棄却せられた。そこで原告は被告大阪国税局長に察査の請求をしたところ、同被告は昭和二九年九月二三日これを理由がないものとして棄却し、右決定はその頃原告に送達された。と述べ

次に旧訴の請求原因として、原告の所得は九〇、八五二円であるのに、一七七、〇〇〇円とした被告浪速税務署長の更正決定及びこれを是認した被告大阪国税局長の審査の決定は、九〇、八〇〇円を超える限度で違法であるから、その取消を求めると述べていたが、

後になつて前示のように請求の趣旨を変更するとともに、原告は昭和二七年度分所得税について青色申告の承認を受けており、その備え付けた帳簿を基礎として確定申告をしているのである。ところが、被告浪速税務署長は青色申告書について更正の制限を定めている所得税法四五条の規定に従わず、更生の理由を附記しないで原告に対し更正決定をした。このような更正決定は無効であるから被告両名に対しその無効の確認を求めると述べた。

被告両名は、「原告の旧訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め

本案前の答弁として、

原告は当初原告の所得金額を一七七、〇〇〇円とした、被告浪速短務署長の更生決定及び被告大阪国税局長の審査決定中九〇、八〇〇円を超える部分の認定に違法があるものとして、その決定の取消を求めいわゆる抗告訴訟を提起したのに、後に至つて右更正決定に更正の理由を欠くことを原因として更正決定の無効確認を求めることに訴を変更した。しかしながら、この訴の変更は次の理由により許されるべきものでない。すなわち、

(1)  旧訴は実質的に違法な内容の課税処分を受けたことを請求の基礎とするに対し、新訴は形式に欠点のある課税処分を受けたことを請求の基礎とするものであつて、この二つの訴は全く請求の基礎を異にする。

(2)  この訴の変更を認めるとすると、多数当事者が抗告訴訟を提起している場合、抗告訴訟と無効確認訴訟との併合を認めなければならない結果となり、行政事件訴訟特例法六条の規定に反することとなる。

(3)  旧訴については出訴期間経過後のものであることが当事者間に争がなく、何時でも審理を終結できる段階にあつたのに、新訴について審査することになると新しい争点について証拠調をしなければならず、著しく訴訟手続を遅滞させることが明らかである。従つて原告の訴の変更は許されないものである。

ところで、本訴提起に至る経過は原告主張のとおりであつて、原告は昭和二九年九月二三日被告大阪国税局長から審査の決定の通知を受けているから、所得税法五一条二項の規定によりその日から三箇月以内の同年一二月二三日までにその取消又は変更を求める訴を提起しなければならないにかかわらず、原告はその後である昭和三〇年四月一四日に至つて本訴を提起したものであるから、原告の旧訴は不適法として却下されなければならない。

と述べ、

本案については主文と同旨の判決を求め、答弁として

原告が青色申告書提出の承認を得ていることはこれを認めるけれども、たとえ原告主張のように青色申告の更正について更正の理由の附記がなかつたとしても、更正決定の無効を来たすのでなく、取消の理由となるに過ぎない。そればかりでなく、被告浪速税務署長は原告に対する更正決定通知書に更正の理由を明示した。従つて原告の新訴は失当である。と述べた。

証拠〈省略〉

理由

まず、被告の本案前の主張について判断するに、原告は当初原告の所得金額を一七七、〇〇〇円とした。被告浪速税務署長の更正決定及び被告大阪国税局長の審査決定中九〇、八〇〇円を超える部分の認定に違法があるものとしてその決定の取消を求める訴を提起していたところ、昭和三一年三月一九日の口頭弁論期日に至つて右更正決定に更正の理由の附記を欠くことを原因として更正決定の無効確認を求めることに請求の趣旨を変更したことは、記録上明白である。なるほど、旧訴は右更正決定が実質的に違法な内容を有することを原因としてその取消を求め、新訴は右更正決定が形式に欠点のあることを原因としてその無効の確認を求めるものであるけれども、いずれも行政処分の違法欠点を攻撃することによつて行政処分の効力を争うものであるから、請求に変更がないものといわなければならない。

被告は関連請求の併合との関係で論議するけれども、新訴が旧訴と請求の基礎に変更がないものと認められた場合においても、新訴は他の当事者の訴と関連性を有しなくなつたとすれば、行政事件訴訟特例法六条の規定により併合を許されなくなることがあるだけであつて、たまたまこのようなことの生ずる場合があるからといつて、常に請求の基礎に変更があるものと認めなければならないものではない。

後に説明するように原告の新訴について特に新しく証拠調をする必要が生ずるものでなく、新訴が提起されたため著しく訴訟手続を遅滞させるような場合でないことは、記録に表れた訴訟の経過により明白である。

従つて原告の右訴の変更はこれを許さなければならない。

原告は訴の変更により旧訴を撤回し新訴についてのみ審判を求める意思であることは記録上うかがわれるのであつて、旧訴の撤回は、他に特段の事由の認められない限り、その性質は訴の取下に他ならないから、これについては民訴法二三六条に定める要件を必要とするものであるが、被告は旧訴について出訴期間経過を理由として訴の却下を求めたに止まり、旧請求の当否に関するいわゆる本案について、準備書面を提出し、準備手続で申述し又は口頭弁論をしたことがない事実は記録上明白であるから、原告は被告の同意がなくても旧訴を撤回することができるものといわなければならない。

従つて被告の本案前の主張は採用できない。

次に本案について判断するに、本訴提起に至る経過が原告主張のとのおりであること及び原告が青色申告書提出の承認を得ていることは当事者間に争がない。

たとえ原告主張のように青色申告書の更正について更正の理由の附記がなかつたとしても、そのような欠点は重大且つ明白なものということはできないから、更正決定を取り消すべき事由となるに過ぎないもので、更正決定の無効を来すものではない。そればかりでなく、その方式及び趣旨により公務員が事実上作成したものと認められる乙第三号証によると、被告浪速税務署長は原告に対する更正決定通知書に更正の理由を附記した事実が認められる。従つて右更正決定が無効であるとしてその無効確認を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 倉橋良寿 岡次郎)

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